学校・制度

クマの通学路対策、文科省が全国要請|被害238人で過去最悪

このニュースを1分で解説

  • 文部科学省は2026年5月15日、全国の教育委員会に対しクマ出没に備えた通学路の点検と児童生徒の安全確保を求める事務連絡を発出
  • 2025年度のクマによる人身被害は全国238人・死亡13人で過去最悪、出没件数も5万776件と過去最多を更新
  • 例年6月から出没が増える傾向があり、夏の登下校・部活動・課外活動が高リスク時期に重なる
  • 学校に対して通学路変更・危機管理マニュアル改訂・クマ鈴やホイッスル携行・関係機関連携の4本柱で対応を要請
  • 都道府県別では秋田県の被害が67人と最多、岩手・福島と合わせた東北6県で全体の66%を占める

文科省、クマの通学路対策を全国に要請|2026年5月15日事務連絡

文部科学省は2026年5月15日、全国の都道府県教育委員会と国公私立学校の主管部局に対し、クマの出没に備えた児童生徒の安全確保を求める事務連絡を発出しました。発出元は総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課で、6月以降に増えるクマの出没を見据えた事前対応を促す内容です。

事務連絡では、過去に出没が少なかった地域でも市街地や集落でクマが目撃されている現状を踏まえ、通学路の点検や危機管理マニュアルの見直しを地域の実情に応じて進めるよう呼びかけています。

近年、市街地や集落など人の生活圏におけるクマの出没情報が増加しており、これに伴いクマと人との接触による人身被害も増加し、過去最多となっている。例年6月頃からクマの出没数が増える傾向にあることから、児童生徒等の安全確保について、より一層の取組が必要である。
引用:文部科学省「クマの出没に対する児童生徒等の安全確保について」(令和8年5月15日事務連絡)

高野智弘
高野智弘
クマは「山の動物」というイメージが強いですが、近年は住宅地のすぐ近くまで降りてきています。文科省が春のこの時期に通知を出すのは、夏休み前の部活動や校外学習、登下校のリスクを想定しているからです。お住まいの地域が「うちは大丈夫」と思える場所でも、通学路の出没情報を保護者会で共有しておく価値はあります。

2025年度のクマ被害は過去最悪、人身被害238人・死亡13人

文科省が事務連絡を出した背景には、環境省がまとめた2025年度の被害統計があります。出没件数・人身被害ともに、統計を取り始めて以降で最悪の水準を記録しました。

出没件数は前年の2.5倍、5万776件に急増

環境省の速報値によると、2025年度(2025年4月〜2026年3月)のクマの出没件数は全国で5万776件に達し、2024年度の2万513件から2.5倍に増えました。都道府県別の上位は次のとおりです。

順位都道府県出没件数(2025年度速報値)
1位秋田県13,592件
2位岩手県9,739件
3位宮城県3,559件
4位新潟県3,528件
5位青森県3,334件
出典:環境省「クマに関する各種情報・取組」クマ出没情報(速報値)

主な原因はドングリなど秋の堅果類の凶作で、餌を求めて人里に下りてくる個体が増えました。出没は東北を中心としつつ、北海道や本州中部、近畿の一部にも広がっています。

人身被害は東北6県で全体の66%、月別では10月が最多

2025年度の人身被害は、被害件数216件、被害人数238人、死亡13人で、これまで最多だった2023年度の被害219人を更新しました。都道府県別の被害人数は次のとおりです。

順位都道府県被害人数
1位秋田県67人
2位岩手県40人
3位福島県24人
東北6県合計158人(全体の66%)
出典:環境省「クマによる人身被害件数(速報値)」(2026年4月時点)

月別では10月が89人と突出して多く、冬眠前の9〜11月で合計161人と全体の7割近くを占めました。一方、2026年に入ってからも岩手県紫波町(4月)、岩手県八幡平市と山形県酒田市(5月)で人身被害が報告されており、春先からの警戒が必要な状況です。

学校に求められる4つの対応|文科省が示した対策の中身

事務連絡では、学校・教育委員会が取り組むべき項目を大きく4つに整理しています。1つずつ確認します。

1. 通学路の点検と変更

学校周辺・通学路でクマの目撃情報があった場合は、点検と通学経路の変更を検討します。見通しの悪い茂みの伐採、街灯の整備、集団登校の編成変更などが具体策です。岩手県花巻市の対応マニュアルでは、出没時に「教職員等による巡回・立哨・出迎え」「警察・スクールガードへの支援要請」を選択肢として明記しています。

2. 危機管理マニュアルの改訂

各校の危機管理マニュアルに、クマ出没時の連絡体制と判断フローを追加します。事務連絡では岩手県花巻市と秋田県男鹿市のマニュアルが参考資料として添付され、両市の様式を地域の実情に応じて取り入れることが推奨されています。

3. 児童生徒への安全指導と携帯品の活用

クマ鈴・ホイッスル・ラジオなど音を出すアイテムの携行、複数人での登下校、出没情報のある時間帯(早朝・夕方)を避けた行動など、児童生徒への具体的な安全指導が求められます。環境省は「クマに出会わないためにできること」「出会ってしまった時の対処」をまとめた資料を公開しており、学校はこれを安全教育の教材として使えます。

4. 鳥獣行政・警察との連携体制

地方公共団体の鳥獣行政担当部局と警察、消防、地域の猟友会などとの連絡網を平時から整備します。出没情報をいち早く学校に共有する仕組みと、出没時の駆除・追い払いを誰がどう判断するかを平時から決めておくと、初動が早くなります。

高野智弘
高野智弘
事務連絡は「すべての学校に一律の対応を強いるもの」ではなく、地域差を前提に書かれています。だからこそ、お子さんが通う学校がどこまで対応しているかは、ご家庭から学校・PTAに直接確認する価値があります。クマ鈴ひとつ持たせるかどうかでも、保護者の関心が学校を動かすきっかけになります。

保護者ができる通学路チェックの3つの視点

国の通知は学校向けですが、家庭側でも準備できることがあります。お子さんの通学路を一緒に歩きながら、次の3点を確認してみてください。

視点1:見通しの悪い場所と時間帯を把握する

竹やぶ・河川敷・林に接した通学路は、クマが身を隠す場所になりやすい区間です。早朝の登校時間や夕方の下校時間にあたるなら、通る順番や友達との待ち合わせ場所を見直す価値があります。各自治体のクマ出没情報ページや防災メールに登録しておくと、リアルタイムで把握できます。

視点2:音と複数人で歩く工夫をする

クマは基本的に人を避ける動物ですが、突然の遭遇では身を守るために攻撃に転じます。クマ鈴・ホイッスル・小型ラジオで「人がいる」ことを音で伝えることが基本対策です。可能なら複数人で歩き、イヤホンで音楽を聴きながらの登下校は控えるよう、お子さんに伝えてください。

視点3:万一遭遇したときの行動を家庭で話す

クマと遭遇した場合、走って逃げるのは厳禁です。環境省はクマが時速40キロで走ると説明しており、人が走って逃げ切ることはできません。背中を見せず、ゆっくり後退して距離を取るのが基本です。子グマを見かけたら近くに母グマがいる可能性が高く、最も危険な状況なので、その場をすぐ離れて大人に知らせるよう、ご家庭でロールプレイしておきましょう。

クマを目撃しても、急に走り出すなどの大きな動作は避けて、落ち着いて静かにその場から立ち去ること。人を見ても逃げない場合は、クマから目を離さず、ゆっくり後退して距離をとる。
引用:環境省「クマに関する各種情報・取組」

夏休み前のいま、家庭と学校で備えを始める

文科省の事務連絡が出された2026年5月は、クマの出没が本格化する6月の直前にあたります。秋の被害ピークまでにできる準備は、通学路の点検、クマ鈴の購入、自治体の出没情報メールへの登録、家庭での避難行動の確認の4つです。

教育Timesでは、自治体ごとのクマ対策事業や学校現場の取り組み事例について、続報をお届けします。お子さんの通学路や夏休みの過ごし方について気になることがあれば、まずは学校・教育委員会へ問い合わせてみてください。