- 文部科学省が2026年8月25日、通信制高校の質を確保するための国の指針をつくる検討会議を8月31日に開くと公表しました
- 根拠は2026年7月23日に公布された改正法です。1953年の制定以来はじめて中身に踏み込んだ改正になりました
- 学校の設置者に、施設や管理運営体制を整える責務が新しく定められます
- 通信制高校に通う生徒は305,197人。高校生のおよそ10人に1人にあたります
- 生徒が実際に通う「通信教育連携協力施設」は全国に3,730カ所。学校本体の11倍あり、ここが指針の焦点です
お子さんの進路に通信制高校が候補として挙がったとき、「学校ごとに何がどう違うのか分からない」と感じたことはないでしょうか。文部科学省は2026年8月25日、通信制高校の適正な運営を確保するための基本的な指針をつくる検討会議を、8月31日に初開催すると公表しました。生徒数は305,197人まで増え、高校生の9.6%を占めます。何が変わるのか、そして学校を選ぶときにどこを見ればよいのかを、公的統計の数字から整理します。
通信制高校に国が初の指針、2027年1月に施行
今回の動きのもとになっているのは、2026年7月23日に公布された「高等学校の定時制教育及び通信教育振興法の一部を改正する法律」(法律第63号)です。文部科学委員長が提出した委員会発議の法案で、衆議院で2026年6月25日、参議院で7月15日に可決されました。
この法律は1953年にできました。定時制と通信制の高校を「振興する」、つまり応援して増やすための法律です。今回の改正で、法律の題名は「高等学校の定時制教育及び通信教育の振興等に関する法律」に変わります。「等」の一文字が加わったのは、振興だけでなく、運営が適正かどうかを確かめる役割まで法律の守備範囲に入ったためです。
設置者の責務が新しく書き込まれた
改正の柱は2つあります。1つは、通信制の課程を置く高校の設置者に対する責務規定が新設されたことです。参議院の議案要旨には、次のように書かれています。
定時制の課程又は通信制の課程を置く高等学校の設置者の責務規定を新設し、同設置者は、施設及び設備並びに管理運営体制の整備及び充実、情報通信技術の活用等による教育の内容及び方法の改善、教員の研修の計画の策定及び実施、通信教育連携協力施設(通信制の課程を置く高等学校の行う通信教育について当該高等学校と連携協力を行うものとして文部科学省令で定める施設)における適正な教育の確保等の責務を有することとする。
引用:参議院「高等学校の定時制教育及び通信教育振興法の一部を改正する法律案」議案要旨
長い文ですが、保護者にとって大事なのは最後の部分です。学校本体だけでなく、学校と連携している施設での教育まで、設置者が責任を負うと明記されました。ここが今回の改正のいちばんの変化です。
もう1つの柱が、文部科学大臣が基本的な指針を定める仕組みです。指針には、通信制の課程を置く高校の適正な管理運営に関する事項、必要な監督と援助を適切に行うための事項、そして広域通信制課程について関係する自治体どうしが連携協力するための事項などを盛り込むとされています。8月31日に始まる検討会議は、この指針の中身を議論する場です。
いつから適用されるのか
施行日は、一部の規定を除いて公布の日から6か月を経過した日です。公布が2026年7月23日ですから、2027年1月23日から新しい法律が動き出します。ただし指針そのものは検討会議の議論を経てからつくられるため、実際に学校の運営が変わるのはもう少し先になります。
これまでも文部科学省には「高等学校通信教育の質の確保・向上のためのガイドライン」がありました。2016年につくられ、その後3回改訂されています。ただしガイドラインは法律に根拠を持たない目安でした。今回の改正で、同じ内容が法律に裏付けられた指針へと格上げされます。
高野智弘
通信制高校の生徒は305,197人、私立が25年で3.3倍に
なぜ今このタイミングで法律が改正されたのか。理由は生徒数の変化にあります。
文部科学省の学校基本調査によると、2025年度(令和7年度)に通信制の課程に在籍する生徒は305,197人でした。内訳は公立が62,008人、私立が243,189人です。同じ年度の全日制・定時制の生徒は2,873,619人ですから、両方を合わせた高校生3,178,816人に対して通信制は9.60%を占めます。およそ10人に1人という計算になります。
この305,197人は2025年12月26日公表の確定値です。同年8月の速報値から一部が修正されており、報道で見る数字と少し違う場合があります。
なお2026年8月26日に公表された令和8年度の速報値では、通信制の生徒は311,792人まで増えました。小学校の数が18,383校に減る一方で在学者数が過去最多になった学校の記事に、学校種ごとの動きをまとめています。
公立と私立で正反対の動き
25年前と比べると、公立と私立で動きがはっきり分かれています。
私立は2000年度の74,023人から2025年度の243,189人へ、25年で3.3倍になりました。一方の公立は107,854人から62,008人へ、4割以上減っています。2000年度は公立のほうが多かったのに、2010年度には私立が上回り、いまは私立が全体の8割を占めます。
背景の1つが不登校の増加です。文部科学省の調査では、小中学校の不登校児童生徒数は2024年度に353,970人となり、12年連続で増えました。中学校で学校に通いづらかったお子さんが、時間や登校日数を選べる通信制を進路に選ぶ流れができています。不登校の原因ランキングの記事では、その背景にある要因を文部科学省のデータから整理しています。
生徒が住む場所と、学校がある場所は別
学校基本調査には、通信制の生徒数を都道府県別に集計した表があります。ただしこの表は、生徒が住んでいる場所ではなく学校が置かれている場所で数えたものです。私立の243,189人を都道府県別に見ると、次のようになります。
| 学校の所在地 | 私立通信制の生徒数 | 私立全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 茨城県 | 37,371人 | 15.4% |
| 北海道 | 24,690人 | 10.2% |
| 沖縄県 | 21,919人 | 9.0% |
| 大阪府 | 17,247人 | 7.1% |
| 千葉県 | 15,166人 | 6.2% |
| 鹿児島県 | 12,592人 | 5.2% |
1位は茨城県で、私立全体の15.4%がここに集中しています。上位に並ぶのは、人口規模が大きい都府県とは限りません。3つ以上の都道府県から生徒を募集できる「広域通信制」の学校が、こうした地域に本校を置いているためです。本校がある道県に住んでいない生徒が多数で、面接指導は住まいの近くにある連携協力施設で受ける形が広がっています。
ここに監督の難しさがあります。学校を認可して指導するのは本校がある都道府県ですが、生徒とその家庭は全国に散らばっています。改正法が「関係地方公共団体相互間の連携協力」をわざわざ指針の項目に挙げたのは、この構造が理由です。
連携協力施設は3,730カ所、学校の11倍という実態
今回の指針づくりで最大の論点になるのが、通信教育連携協力施設です。学校本体とは別に、生徒が実際に足を運んでレポートの指導や面接指導(スクーリング)を受ける場所を指します。いわゆるサポート校やキャンパス、学習センターと呼ばれる施設が、この区分に入ります。
令和7年度の学校基本調査によると、通信制の課程を置く高校は独立校143校と併置校190校を合わせて333校です。これに対して通信教育連携協力施設は、全国に3,730カ所ありました。学校の数のおよそ11倍です。
| 項目 | 公立 | 私立 |
|---|---|---|
| 学校数(独立校+併置校) | 82校 | 251校 |
| 生徒数 | 62,008人 | 243,189人 |
| 通信教育連携協力施設 | 136カ所 | 3,594カ所 |
| 入学者(2025年度) | 13,527人 | 73,199人 |
| 退学者(2024年度間) | 4,704人 | 9,598人 |
目を引くのは施設数の差です。私立の学校数は公立の3.1倍ですが、連携協力施設は26.4倍あります。1校あたりでは公立1.7カ所、私立14.3カ所です。私立の広域通信制が、全国に広げた施設網で生徒を受け入れている構図が出ています。
全体の数が分かったのは今年が初めて
この3,730カ所という数字には、もう1つ意味があります。学校基本調査で連携協力施設の内訳がそろって公表されたのは、令和7年度調査が初めてです。
内訳は、面接指導等実施施設が1,584カ所、学習等支援施設が2,106カ所、その他の施設が40カ所です。前年度の令和6年度調査では、面接指導等実施施設の297カ所だけが集計され、それ以外の区分と合計はいずれも「…」(調査していない、または不詳)と表示されていました。つまり国自身も、生徒が実際に通う場所の全体像を数字として持っていませんでした。
法律の条文に「通信教育連携協力施設における適正な教育の確保」という文言が入ったのは、この空白を埋めるためです。学習等支援施設が2,106カ所と最も多く、面接指導等実施施設を上回っている点も、指針の議論で扱われる論点になりそうです。
高野智弘
公立と私立で違う「学びの続き方」
もう1つ、保護者に知っておいていただきたい違いがあります。在籍したあと、実際に授業を履修しているかどうかです。
文部科学省が中央教育審議会のワーキンググループに示した資料によると、通信制の生徒のうち実際に1科目以上を履修している生徒の割合は、2022年5月1日時点で公立が69.6%、私立が98.1%でした。公立通信制では、在籍していても年度当初に1科目も履修していない生徒がおよそ3割いる計算になります。
数字だけ見ると私立のほうがよさそうですが、単純な優劣ではありません。公立通信制は学費が安く入学のハードルが低いぶん、働きながら少しずつ学ぶ人や、いったん籍を置いて様子を見る人も受け入れています。一方で私立は連携協力施設で日々の学習を支える体制があるため、履修が進みやすい構造です。
退学の数字は逆の傾向を示します。2024年度の1年間に退学した生徒は、公立4,704人、私立9,598人でした。翌年5月時点の生徒数で割ると公立が7.6%、私立が3.9%です。公立のほうが在籍と履修のつながりが弱く、離れていく生徒も多い、と読み取れます。
高校の学費については、通信制も高等学校等就学支援金の対象です。ただし通信制は単位ごとに支給額を計算する仕組みで、全日制と受け取り方が違います。制度全体の仕組みは高校無償化でいくら支給されるかの記事に、授業料以外にかかる費用は高校3年間の教育費の記事にまとめています。
通信制高校を選ぶ前に確認したい5つのこと
指針ができるのはこれからですが、いま学校を選ぶ家庭が待つ必要はありません。改正法が設置者の責務に挙げた項目は、そのまま学校を見るときのチェック項目になります。
1つめは、通う予定の施設の位置づけです。見学に行ったキャンパスが面接指導等実施施設なのか、学習等支援施設なのかを聞いてください。面接指導は卒業に必要な要件ですから、それをどこで受けるのかは進路の前提になります。
2つめは、学費の総額と内訳です。本校の授業料とは別に、連携協力施設の利用料が必要な場合があります。就学支援金の対象になるのは学校の授業料の部分だけです。「支援金を引くといくら残るのか」を年額で確認してください。
3つめは、面接指導の場所と回数です。本校が遠方にある場合、集中スクーリングで宿泊を伴うことがあります。交通費と宿泊費、そして本人が数日間その場で過ごせるかどうかは、事前に見積もっておきたい点です。
4つめは、教員の体制です。改正法は教員の研修計画の策定と実施を設置者の責務に挙げました。レポートを添削するのは誰か、質問はどこに送るのか、担任にあたる人はいるのかを聞いておきましょう。
5つめは、卒業までの単位の積み上げ方です。年間に何単位を履修する設計なのか、遅れた場合にどう取り戻すのかを具体的に確認してください。前の学校で修得した単位を持ち込めるかどうかも、転入学・編入学では大きな差になります。
高野智弘
よくある質問
通信制高校の新しい指針はいつから適用されますか?
サポート校と通信教育連携協力施設は同じものですか?
通信制高校のデメリットとして何を見ておけばよいですか?
進路の候補に入れるなら、いま見ておきたいこと
通信制高校は、いまや高校生の10人に1人が選ぶ進路になりました。数が増えた一方で、学校ごとの運営の差を確かめる物差しが法律にはありませんでした。2026年7月の改正で、その物差しをつくる作業がようやく始まります。
家庭でできることは3つあります。1つめは、見学するキャンパスが面接指導まで行える施設かどうかを口頭で確認すること。2つめは、就学支援金を差し引いたあとの学費を年額で出してもらうこと。3つめは、8月31日から始まる検討会議の議論を、進路を決める前にひと通り見ておくことです。会議の資料は文部科学省のサイトで公開されます。
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