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デジタル教科書で学力低下?文科省が示した紙との比較データ

このニュースを1分で解説
  • 文部科学省が2026年8月3日、デジタル教科書の検討会議で「学力への効果」「発達段階」「健康」「手書き」を議論し、根拠資料を公開しました
  • 小学校の読解調査では紙とデジタルに統計的な差はなく、低学年・中学年は紙がやや高く、高学年ではデジタルが逆転しています
  • 「スウェーデンが学力低下でデジタルをやめた」との見方に、文科省は順位が下がったのはPISA2022だけだと否定的な説明をしました
  • 手書きは文部科学大臣が国会で「今後とも重要」と答弁しており、なくす方向ではありません
  • 新しい教科書が使われ始めるのは2030年度。指針は2026年12月末までにまとまります

タブレットで勉強する時間が増えて、学力は大丈夫なのだろうかと感じたことはありませんか。文部科学省は2026年8月3日、デジタル教科書の指針をつくる検討会議で、学力への影響や発達段階との関係を裏づける資料を公開しました。紙と比べて成績はどうなのか、手書きや目はどうなるのか。公開されたデータをもとに、4つの論点を整理します。

デジタル教科書で学力低下は起きるのか、文科省が根拠を公開

文部科学省は2026年8月3日、「デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議」の第4回を開き、委員に配った資料を公開しました。2026年6月10日に成立した改正学校教育法を受けた会議で、紙とデジタルのどちらをどの学年・どの教科で使うのが望ましいか、国の指針をまとめるのが役目です。

この日の議題は保護者の不安そのものだった

第4回で扱われたのは4つ。児童生徒の発達段階、健康への影響、学力等への効果・影響と諸外国の動向、そして学習活動における「手書き」の重要性です。制度の話ではなく、家庭で心配されている中身がそのまま議題になりました。

会議の設置文書によれば、検討期間は2026年4月1日から12月31日まで。年内に国の指針がまとまり、それをもとに教科書会社が教科書をつくり、教育委員会が採択していく流れです。

文科省の見立ては「学力向上に資する学びにつながる」

公開された資料4には、文科省の分析が図で示されています。デジタル教科書を使うことが「主体的な学び」「対話的で深い学び」「授業内容の理解」「勉強が好き」につながり、そうした学び方の児童生徒は全国学力・学習状況調査で正答率が高い傾向にある。2段階の説明です。

裏づけとなった調査の規模は小さくありません。2025年度の大規模アンケートには、小学生15,927人、中学生26,439人、教師9,037人が回答。デジタル教科書を「いつも使う」中学生のうち、授業内容の理解について「当てはまる」と答えた割合は59.5%で、「使わない」中学生では41.0%でした。

ただし、これは使用頻度と回答の関連であって、使えば理解が深まると証明したものではありません。もともと授業に前向きな子ほどよく使う、という順序も考えられます。文科省の資料も因果関係とは書いていません。

高野智弘
高野智弘
こうした調査は、「使っている子の成績が良い」と「使えば成績が上がる」を分けて読むと混乱しません。今回の資料でわかるのは前者までです。文科省が指針づくりに向けて、あえて否定的なデータも並べて公開している点は信頼できると思います。

紙とデジタル、学力の差が出た場面と出なかった場面

一番知りたいのは「結局どちらが成績が良いのか」でしょう。結論から言うと、差はほとんどなく、学年で向きが変わります。

小学校の読解調査では、学年が上がると結果が逆転した

科学研究費による調査では、小学校の国語で「深く読む」設問を紙とデジタル端末の両方で解かせています。ある中規模校の説明文の調査では、全体の正解率が紙39.4%、デジタル39.1%とほぼ同じでした。

紙とデジタルの読解正解率 デジタル 低学年(102名) 28.5% 26.2% 中学年(87名) 55.4% 52.0% 高学年(93名) 59.7% 64.0% 出典:難波博孝(2024)N小学校・説明文

低学年と中学年では紙がわずかに上回り、高学年ではデジタルが4.3ポイント上回りました。ただし統計的な有意差は確認されていません。調査した研究者は、学年が上がるにつれデジタルの点数が紙と逆転したり差を広げたりする傾向が、調べたすべての学校で見られたと報告しました。

記憶テストと理解テストは、紙もデジタルも同じだった

文科省の実証研究では、小学5年生の2クラスの比較も行われています。片方はタブレットとデジタル教科書を併用し、もう片方は紙の教科書とワークシートで国語を学びました。

テストデジタルのクラス紙のクラス
記憶テスト(8点満点)3.96点3.83点
理解テスト(100点満点)88.3点89.5点
出典:文部科学省「学力等への効果・影響、諸外国の動向について」(第4回検討会議 資料4、2026年8月3日)。原典は令和3年度「学習者用デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究事業」

どちらもほぼ同点です。大学生対象の先行研究では紙が優位となる例が多かったのに対し、デジタルでの学習に慣れた児童を対象にしたことが影響していると考えられる。文科省はそう説明しました。慣れの差が結果を左右する、との指摘です。

低学年ほど紙が有利になるのは、脳の負担が理由

とはいえ「どの学年でも同じ」ではありません。東京大学の野澤祥子特任教授は、読解の得点は画面より紙のほうが高いとする研究が多いことを紹介し、理由として2つの仮説を挙げました。1つは、デジタルでは文章が表面的に処理されやすいとする説。もう1つは、スクロールや操作に頭を使うぶん読むことに回せる力が減るとする説です。

とくに単語をすらすら読むのがまだ難しい段階では、書かれていないことを推し量る読み方で紙が良い結果を出した研究もあります。読む力を育てている時期は読むこと自体に頭を使うため、デジタルの操作が深い理解を妨げかねません。

学校ならではの事情もあります。家庭より学校のほうが「画面だと成績が下がる」現象が出やすく、教科書・黒板・先生・友達と注意を向ける先が多いことが関係していると説明されました。

高野智弘
高野智弘
お子さんが端末で調べものをしながら宿題をしていて、なかなか進まないように見えるとき。やる気ではなく、操作に頭を使い切っているだけかもしれません。読み込みたい文章だけ紙に印刷して渡すと、急に進むことがあります。低学年のお子さんほど違いがはっきり出ます。

「スウェーデンは紙に戻した」の真相と、諸外国の判断

デジタル教科書の話題で必ず出てくるのが、北欧の国が紙に戻したというエピソードです。「スウェーデン デジタル教科書 廃止」と検索する人も少なくありません。今回の資料には、はっきりした説明がありました。

順位が下がったのは直近の1回だけ

文科省の資料によれば、スウェーデンが2010年ごろからデジタル教育を進めたあとの国際学力調査は、TIMSSが過去3回とも向上し、PISAも2015年・2018年と上昇。下がったのは直近の2022年だけでした。学力が下がり続けたからデジタルをやめた、という筋書きにはなっていません。

スウェーデン教育庁自身も、PISAの成績と学習以外でのICT機器使用には負の相関があるものの、学校の学習での使用との関係ははっきりしないと分析しました。

紙の教科書を買う補助金を出した背景も、日本とは事情が違います。スウェーデンには教科書検定がなく、広告入りの冊子が教材に使われていた例もありました。2023年の法改正で教科書を専門の出版社による印刷物と定義し、購入を補助することで質の高い教材に手が届くようにした。デジタル教材を制限する趣旨ではないとされています。

諸外国においては、教科書制度自体が、定義や使用義務の有無などの点で状況は様々であるが、我が国のように教科書として紙の図書のみを認める制度となっている国は、主要国ではほとんど見られない。
引用:文部科学省「学力等への効果・影響、諸外国の動向について」(第4回検討会議 資料4)

シンガポールは小学生への端末配布を見送った

慎重な判断をした国もあります。シンガポールは2021年に全中学生へ1人1台端末を配り終えましたが、小学校では2021年から2022年に5校で試したうえで、悪影響のほうが大きい、発達段階に見合わないとして、当面は端末を配らないと2023年に決めました。

ノルウェーも2026年6月のカリキュラム改訂で、小学校1年から4年のデジタル機器の使用はとくに慎重に行うべきだと明記。フィンランドでは2024年10月、ヘルシンキ市議会が紙の教科書に触れる機会を保障する方向の決議を全会一致で採択しました。

反対に、デジタル教科書を進めている韓国とエストニアは国際学力調査で上位です。韓国はTIMSS2023の算数・数学で3位、PISA2022の読解力で3位。エストニアはPISA2022の読解力で4位でした。判断は国によって割れており、どちらか一方が正解だと言い切れる状況ではありません。

手書きと視力はどうなる?家庭で今からできること

手書きは残る。大臣が国会で答弁している

タブレットが増えると字を書かなくなるのではないか。この心配に対し、文科省は資料5をまるごとこのテーマに充てました。国会での法案審議における文部科学大臣の答弁が、そのまま載っています。

児童生徒の学習環境から本やノートをなくして、デジタル一辺倒の学びを行うわけではなく、例えば、デジタルの部分で学んだことを紙のノートにまとめるといった、手を動かして書く活動は今後とも重要であると考えている。
引用:文部科学省「学習活動における『手書き』の重要性について」(第4回検討会議 資料5)

年内にまとまる大臣指針でも、書く活動を確保する重要性を示すとしています。実証研究の授業例でも、デジタル教科書で資料を探して話し合ったあと、まとめは板書を見ながらノートに書き取る形が紹介されました。

視力は小中で改善、高校だけ過去最大

目への影響も気になります。2026年2月13日公表の令和7年度学校保健統計では、裸眼視力1.0未満の割合が小学校36.07%、中学校59.35%、高等学校71.51%でした。

意外なのは小中学校の動きです。前年度は小学校36.84%、中学校60.61%で、どちらも下がりました。一方で高等学校は71.06%から上がり、過去最大です。端末が広がった時期に小中学生の視力が悪化し続けているわけではない。データはそう示しています。

学年別に、紙とデジタルのどちらを基盤にするか

法政大学の渡辺弥生教授は、発達段階ごとにどちらを土台にすべきかを整理した資料を示しました。他ではあまり見かけない切り口なので、表にまとめます。

段階基本にしたい形デジタルが効く場面
小学校低学年紙を基盤にする音声で読みを支える、できたことをすぐ返す
小学校中学年紙にデジタルを併用図形の回転や変形、グラフの変化
小学校高学年デジタルの比重を上げられる英語の発音、理科や実技の動画、道徳のドラマ
中学生・高校生デジタルを本格的に活用複数の情報の統合、データの処理と比較、探究活動
出典:渡辺弥生(法政大学)「デジタルも紙も 発達段階からの視点」(第4回検討会議 資料2、2026年8月3日)をもとに作成

低学年で紙を基盤にする理由は、集中する対象を選び分ける力がまだ育っていないためです。アニメーションや通知と本筋の情報を分けにくく、楽しいデジタル教材が必ずしもわかりやすい教材にはならないと説明されました。

中高生については条件つきです。自分で学び方を決められて批判的に考えられればデジタルが効果的だが、個人差があり、自分を抑える力が弱い場合は効果が期待できない可能性もある。資料はそう釘を刺しています。

2030年度までに家庭でできること

新しい教科書が使われ始めるのは2030年度。いま小学1年生のお子さんなら5年生、いま5年生なら中学3年生のときにあたります。あわてて何かを買う必要はありませんが、今から積み上げておけることが3つあります。

1つ目は、紙に書く時間を意識して残すことです。デジタルで調べたり考えたりしたあと、ノートに手でまとめる。文科省が示している使い方そのものです。市販のドリルでなくても、白い紙に自分の言葉で書くだけで足ります。学年に合った練習用のプリントはこども教材プラスなどでも無料で手に入ります。

2つ目は、学習以外の画面時間を見直すことです。こども家庭庁の調査では、1日あたりのインターネット平均利用時間は小学生(10歳以上)で約3時間44分、中学生で約5時間2分、高校生で約6時間19分。うち最も長いのは趣味・娯楽の約3時間1分でした。授業で端末に触れる時間より、こちらのほうが大きくなります。

3つ目は、お子さんが「読みやすい」と言う媒体と、実際に「理解しやすい」媒体は一致しないことがあると知っておくことです。小学校中学年から中学生では、自分が今ちゃんと理解できているかを判断する力がまだ育ちきっていないと指摘されました。テスト前の重要な単元だけ紙に印刷するなど、大人が場面を選ぶと効きます。

制度そのものの中身はデジタル教科書が正式な教科書になる改正法の内容で詳しくまとめました。端末の使い方に迷ったときは子どもの生成AIとの付き合い方もどうぞ。英語は先行してデジタル化が進んでおり、中学英語のCBTの動きも押さえると全体像がつかめます。

高野智弘
高野智弘
保護者の方から「うちの子は紙のほうが合っていると思う」というお声をよくいただきます。今回の資料を読む限り、低学年ではその感覚に裏づけがありました。ただ高学年から中学生にかけては逆転していきます。いま合っている形が続くとは限らないので、学年が変わるタイミングで一度見直すくらいがちょうどよいと思います。

よくある質問

デジタル教科書はいつから使われますか?
新しい形の教科書が使われ始めるのは2030年度です。もとになる改正学校教育法は2026年6月10日に成立し、指針をつくる検討会議は2026年12月31日までに議論をまとめる予定。そのあと教科書会社が制作し、検定と採択を経て教室に届きます。現在も、紙の教科書の内容を画面に表示する教材は多くの学校で使われています。
デジタル教科書のデメリットは何ですか?
主に3つ指摘されています。1つ目は、画面の操作に頭を使うぶん読むことに集中しにくくなること。2つ目は、低学年ほど周りの刺激に注意が引っ張られやすいこと。3つ目は、学校では注意を向ける先が多く、家庭よりも画面での成績が下がりやすいとの分析があることです。いずれも使い方で軽くできるため、紙とデジタルを場面で使い分ける前提で議論が進んでいます。
スウェーデンはデジタル教科書を廃止したのですか?
廃止ではありません。2023年の法改正で教科書を印刷出版物と定義して購入に補助金を出しましたが、これは広告入りの冊子が教材に使われていた状況を改める目的だと文科省は説明しています。また2024年に端末を使う義務が撤廃されたのは日本の幼稚園にあたるプレスクールで、義務教育と高校では撤廃されていません。

いま必要なのは、紙かデジタルかを決めることではない

デジタル教科書で学力低下は起きるのか。文部科学省が8月3日に示した答えは「学年と場面による」でした。小学校の読解に統計的な差はなく、低学年は紙、高学年はデジタル。手書きはなくならず、視力も小中学生では改善しました。

2030年度まではまだ時間があります。その間にできるのは、どちらかを選ぶことではなく、お子さんがいまどちらで理解しやすいのかを見ておくこと。学年が上がれば答えも変わります。

授業以外の画面時間については、全国学力テストが示したSNS・動画視聴時間と正答率の関係も参考になります。

教育Timesでは、文部科学省やこども家庭庁の発表を保護者の生活に引き寄せて届けています。ご意見やご質問は運営会社のお問い合わせ窓口までお寄せください。

高野智弘

この記事を書いた人:高野智弘
株式会社SUNCORE代表。教育メディア「教育Times」を運営し、文部科学省・こども家庭庁の公式発表をもとに、保護者向けの教育ニュース解説を発信している。
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